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酒谷先生独自インタビュー

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2022年11月に、東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻の前特任教授であり、特任研究員の酒谷薫先生による「フレイル・認知症予防」の外来を新設しました。高齢化社会において多くの人々が悩む認知症ですが、早期に適切な対応をすることで症状を抑えたり、進行を遅らせることが期待できます。今回は、認知症予防の最前線で活躍する酒谷先生に、フレイル・認知症予防の外来と認知症の未来について詳しくお話を伺いました。

認知症のリスクと予防法を、多くの人に広めたい

どのような経緯でフレイル・認知症予防外来を担当することになったのでしょうか?
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私は脳神経外科医として研鑽を積み、2019年から東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻で特任教授を務めました。特任教授を退任後、現在は特任研究員として研究を行っています。私の研究テーマは認知症で、特に認知症と全身性代謝状態との関連について取り組んでいます。多くの方は認知症を「治らない」「対処できない」と思っているかもしれませんが、私たちの研究では、運動や食事を含む全身の状態が認知症と深く関連していることが明らかになってきています。現在は健診データを基にAIを活用し、認知症リスクを分析する研究を進めています。研究をさらに深めると同時に、認知症の早期発見や予防に貢献したいと考えていたところ、喜納直人院長とのご縁をいただき、こちらで専門の外来を開設させていただくことになりました。

現在、外来にはどのような患者さんがいらっしゃいますか?

男女比は同じくらいで、高齢者とそのご家族に受診いただいています。一般的に、認知症の外来をご本人がすすんで受診してくださっている場合は、あまり心配ないことがほとんどです。逆に、ご家族に無理やり連れられてきたり、本人が受診を拒否するためにご家族だけで受診される場合は、症状が進んでいることが多いです。私は、できれば認知症の初期、いやもっと前の段階に受診して予防に役立てていただきたいと考えています。そのため、40代、50代のまだまだ若い世代の皆さんにも一度受診していただきたいと思っています。

前向きに受診される方は少ないのではないでしょうか?

そうですね。誰もががんは怖い病気だと思っていますが、「早期発見できれば治療できる場合が多い」ということを知っている人も多いですね。そのため、多くの人が積極的に定期健診を受けます。しかし、認知症に関してはどうでしょう? 多くの人が「年を取れば仕方がないもの」「治療や予防が難しいもの」と考えていますし、さらに「家族や周りに迷惑をかけてしまう」という心配もあります。そのため、認知症に対する恐怖心が広がっています。恐れてしまうあまり、避けてしまうこともありますが、私はむしろ「恐れるからこそ、早期に対策を考えるべきだと思います」とお伝えしたいです。誰もが年を取り、物忘れも経験することですが、今の時代だからこそ認知症に真摯に向き合い、その予防に努めることが重要です。

認知症に対する対策として、薬物療法だけでなく、前向きな心の持ち方や豊かな人間関係も重要

認知症に対する治療方法は、どのようなものがありますか?
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認知症の完治を目指す治療法は確立されていませんが、早期発見と早期治療により病状の進行を遅らせることが可能です。主な治療方法は薬物療法で、アルツハイマー型認知症では脳の神経細胞の破壊を改善する薬や、周辺症状を抑えるための治療薬が使われます。血管性認知症では、脳血管障害のリスク因子である高血圧や糖尿病、心疾患を管理することが重要です。また、認知症に伴ううつ症状に対しては、抗うつ薬などが処方されることもあります。治療を早期に始めることで、症状の改善が期待できる場合があります。

薬物療法以外に、他に対策方法はありますか?

私が皆さんに伝えたいのは、薬物療法以外の対処法です。認知症と診断された場合でも、患者自身が行えることはたくさんあります。例えば、昔の思い出を振り返ったり、音読や脳トレを楽しむことが挙げられます。しかし、最も重要なのは心を満たす生活を送ることです。そのためには、自分の役割や貢献を見つけることが大切です。例えば、家族と同居していても、些細な家事を手伝うことができます。家族が全てを引き受けるのではなく、できる範囲での協力を求め、感謝の気持ちを伝えることが大切です。感謝されることは、心の栄養となります。

明るく前向きな心が非常に重要ですね。

認知症やフレイル予防には、自ら積極的に行動したいという意欲が非常に重要です。例えば、仲間と一緒にウォーキングしたり、美味しい食事を楽しんだり、好きな音楽を聴いたり、カラオケを楽しんだりすることが日常生活の活力となります。楽しいことは脳を活性化し、認知機能や生活能力の維持・向上に役立ちます。もし一人での運動が難しい場合でも、リハビリ室での運動を試してみることも良いでしょう。また、健康教室などの参加もお勧めです。コロナ禍で制限があるかもしれませんが、人との交流は認知症やフレイル予防にとって重要です。

フレイルや認知症に悩むことなく、未来を明るくするために

認知症予防に関心を持つようになったきっかけは何ですか?
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中国での経験がきっかけで、中医学の先生と出会いました。その先生から「良い医者とはどんな医者だと思うか」と質問され、「難しい病気を治すことができる医者」と答えたところ、「中医学では、病気にならないようにする医者が良い医者だ」と教えられました。この言葉に大きな衝撃を受けました。病気にならないようにできたら、それが一番良いに決まっています。中医学では、病気とはいえない軽い症状がある状態を「未病」と言います。私は未病を「ストレス」だと理解しました。そう考えれば、脳神経分野でもできることが多いことを感じ、それ以来、医師として自分にできることへの探究が続いています。

現在は東京と大阪を行き来する日々を送っているとお伺いしました。

月曜日、火曜日、第二土曜日の午前中は外来を担当し、水曜日と木曜日は東京大学で過ごしています。東京と大阪を新幹線で往復する生活は、思っているよりも快適で、移動中も充実しています。自宅は神戸にあり、通勤のドライブも楽しんでいます。外来で患者さんにお会いする時間も、大学での研究活動も、どちらも貴重な時間です。認知症は困難な病気ですが、私たちの研究が進展し、認知症を予防できる方法が増えれば、多くの方々が苦しみを軽減できると信じています。この未来に向けて、診療と研究に全力で取り組んでいきたいと思います。

それでは最後に、ホームページをご覧の方へメッセージをお願いします。

認知症と診断された時、多くの人が「家族に負担をかけたくない」という気持ちを抱くでしょう。この感情は非常に自然で共感できるものだと思います。そのためにも、治療や支援を受け入れて、家族全員が幸せに暮らせるように努力しましょう。また、大切な家族のために自身の健康リスクを理解し、適切な運動や食事を心がけて予防に取り組むことも重要です。今、まだ認知症について心配する年代ではない方でも、定期的な健康診断を受けることで自身のリスクを知ることができます。将来、認知症は恐れる病気ではなく、予防可能な病気として認識されるようになるでしょう。そうした未来に向けて、誰もが生き生きとした日々を送り、優しい気持ちで過ごせるよう願っています。そうすれば、フレイルについてもほとんど悩む必要がなくなると考えます。もし今、「認知症かもしれない」と感じている方がいれば、ぜひ専門医の診察を受けてください。

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